7月のある日、妊娠中期の妊婦さんから下腹部に力が入らなくて調子が悪いと連絡がありました。
お電話の声はやや不安そうであるものの、聞き取れるトーンで、声に張りもあります。 出血やお腹の張りや発熱などの症状はありません。ただ力が入らないとベットで安静に過ごされている様子。実はパートナーの方が数日前に発熱して、一日で解熱したのでコロナの検査をしていないと。
うーん。コロナに感染か、切迫早産が進行しているか、はたまたその両方か。 疑われる症状の早急な診断と、医療が緊急に必要であればつながなければなりません。
まずは、コロナに感染しているかどうか調べたい。 東京都の妊婦専用電話相談は同居人に発熱した人がいれば対象外と。つまり妊婦も家族も無症状の場合でなければ相談に乗ってくれません。なので発熱外来に電話するようにと言われます。次に発熱外来に電話すると、今発熱などの症状があるか、コロナ陽性者の濃厚接触者認定を受けた人でなければ検査は自費(およそ3万)と。切迫早産かもしれない妊婦を、検査のためにあちこち動かすのは悩ましいところです。
次に、すぐに医療機関に行かなければならない切迫早産かどうか判断しなければ。 切迫早産の診断は子宮頸菅の長さを測定など医療機関の経腟エコー検査と、子宮収縮と胎児心拍を確認するモニター装着の二つの方法で行います。 今年1月に、遠隔で妊婦さんのお腹の張りを確認できるモニターを奮発して購入していました。 急いでモニターを持参し妊婦さん宅へ出向きます。
玄関で防護服に着替え、ベットで横になっている妊婦さんのお腹の張りを確認し、モニターを装着。その間10分。そして、また玄関でタブレットに飛んでくるお腹の張りと、赤ちゃんの心拍を確認。よしっ、規則的な収縮(張)はないので緊急性はなさそう。緊急でなければ下手に動かさず、在宅で安静に過ごしてもらうようにと連携医療機関からの助言もあり、在宅での安静療養です。
コロナ禍の医療体制については妊婦さんたちも理解しています。やみくもに病院を受診したいとは言いません。でも不安なのも事実。自宅で夫に身の回りをやってもらいながら、私と24時間いつでも連絡がつくこと。毎日朝晩、モニターを自分で装着し、赤ちゃんの心拍やお腹の張りの波形を私が遠隔で確認できることなどの体制を整え、ご夫婦でがんばってもらわなければなりません。もちろん、急変すればすぐに医療機関です。
それから毎日、自宅で妊婦さん自らが朝と夕方20分のモニター装着を終えると私の携帯にピロリンとメッセージ。携帯で胎児心拍や子宮の張りのモニター画面を確認し「今日もお元気ですよ~」とやりとり。体調を聞いてちょっとした助言も加えます。
2~3日で体調は良くなり、少しずつ歩けるようになったところで5日目にモニターを引き取りに再び訪問。表情も良くなり、声に張りもできてきました。ちゃんと立つこともできます。 在宅で過ごしながら、赤ちゃんの心拍も確認でき、常にだれか専門職とつながっているということで予想以上に安心して過ごしたとおっしゃいました。コロナ禍だからこそ、新たな妊婦さんとのやり取りを発見することができました。
そうそう、パートナーさんはすぐにPCR検査をしてくれるところを探して検査してくれたそうで、結果はマイナス。今回の経験で、発熱時はすぐに検査をするというのが妊婦のパートナーとして大切なこととご理解いただけたようです。
やれやれ、これからもこんな出来事、まだまだ沢山ありそう。 でも、医療現場が逼迫しているので、私と妊婦さんにできることは、できるだけ健康に妊娠生活を過ごして、元気な赤ちゃんを産むこと。これが我々の責務です。 最近よくニュースで聞く言葉「命を守る行動をしてください」という言葉の重さを、改めて感じた一件でした。一人ひとりていねいに、母子の命を守っていかなければですね。