人の一生は長いですが、
女性が妊娠し、陣痛が開始して出産に至るまでも、
実はとっても長い道のりだと日々感じています。
つむぎ助産所で分娩希望の初産のかたは
24時間救急対応可能でNICUという赤ちゃんの入院施設がある
周産期医療センターの指定を受けている病院で3〜4回妊婦健診を受けます。
いつもお願いする小さな診療所の先生に比べて
周産期センターで行われる検査項目は多く
産婦人科ガイドラインに忠実なので、全てをクリアできて
助産院での出産許可がでることはなかなか難しいです。
先日、妊娠中のガイドラインをすべてクリアした妊婦さんの
長い長いお産をお手伝いしました。
体位変換や食事、入浴などを取り入れて
ゆっくり進むお産の間を繋ぎます。
こちらが提案することを嫌と一言も言わずに(いや、辛かったと思います)
ここで産むという強い意志を最後まで貫き通しました。
分娩開始後に搬送をしなければならない診断の一つに
分娩遷延というのがあります。
陣痛がありながら進行しないという状況が〇時間と決まっていて
それを超えると連絡をしなければなりません。
ただ、母子に異常が認められない場合は医療機関に搬送となっても
時間帯によってはすぐに医療を使って分娩というわけではありません。
また、どこから○時間とみなすのか解釈に差があるのも事実です。
ここは総合的に判断しなければなりません。
判断するには
子宮口の開大や児頭の下降度、陣痛とモニターによる胎児の心拍状況や、
破水した場合の羊水色や、出血の有無という客観的な状況だけでなく
お母さんのやる気や体力も重視します。
そして最も大切なのは、この分娩は数時間後にはどうなっているか
赤ちゃんはまだまだ元気でいれるかを予測して
今の判断を決めなければならないことだと思うのです。
数時間後にはどうなるかを正しく冷静に判断するためには
自分の希望的観測が入らない様にすること。
もう一人のベテラン助産師の客観的判断も欠かすことができません。
だから、開業助産師は必ず2人以上でお産のお手伝いをします。
2009年から東京都搬送システムという体制が整備され
東京都の母体、胎児搬送のルールが明確に定められています。
また、受け入れ先にデーターとともにどういった判断なのか
正しく伝えることが分娩を取り扱う施設に求められていますので
客観的判断をするためにも経験豊かな助産師の人手が必要です。
遷延分娩。
医療機関では促進剤を使い陰切開とともに吸引や鉗子を用いて
器械的に分娩を進行させます。
助産所では自然に赤ちゃんの頭が狭い産道をゆっくり進んでくるのを
ただひたすら待つために、食べさせたり、眠らせたり、動いたりという
人の持つ力をうまく使う工夫と根気と見守りです。
実は今回、2回搬送した方がよいのか迷ったタイミングがありました。
1回目はとても痛そうな陣痛があるにも関わらず赤ちゃんの頭が下がってこないこと。
2回目は破水はしたけど、赤ちゃんの頭がまたまた下がってこなかったからです。
2回とも赤ちゃんはとても元気というモニター波形結果がでたこと
羊水の異常も全くなかったこと、
そしてお母さんがここで産むという強い意志があって、待つことにしました。
正直な気持ち、このまま助産所で赤ちゃんが生まれるという
私たち助産師に自信がなかったのも事実です。
赤ちゃんが下がってこない理由にしばしばあることは
赤ちゃんの骨盤の中での頭の回旋がちょっと違うこと
お臍がどこかにまきついて邪魔をしていること
手がお口や肩のちかくにあって邪魔をしていることなどが考えられます。
経産婦さんの場合、そういった状態でも時が経てば産めることがしばしばありますが
初産婦さんはどうなのか、年齢や体力、気力によるところが大きいので予測がつきません。
痛みを我慢しないという概念が一般的な今の時代
早めに医療機関にいきましょうと考えることも、最近の私です。
サポートの助産師と話し合い、心の中で決意(私が)して
「もう、十分頑張りました。あと30分で連携医療機関にお電話をして
医師の力を借りて産みましょう」と宣告したその時、
お母さんは黙って決意した様です。
持てる限りの力を振り絞っていきみ出しました。
すると、遠くに見えた赤ちゃんの頭がみるみる下がってきたのです。
赤ちゃんは横向きのままででしたが、スムーズに生まれました。
ほとんどストレスを感じていなかったようで穏やかな表情。
赤ちゃんの顔の向きが横向きのままだったので
お母さんは腰が割れる様に痛かったのだと思います。
だから、このように長い時間をかけて
お母さんをいたわるように生まれたのでしょう。
赤ちゃんを産むためには何一つ無駄な痛みはないものです。
先日、乳房ケアでいらした別のお母さんの母子手帳にも
所要時間33時間と書いてありました。
「長くて、苦しかったでしょう〜」と声をかけると。
「はい、実は無痛分娩を希望していて、途中まで無痛でしたが陣痛が遠のいて。
このままじゃ分娩進行しないからと助産師さんに励まされて、麻酔剤を切りました。
そこから急に陣痛を感じて必死になって産んだんですよ〜、もうほんと辛かったです」
と笑顔で話してくださいました。ほんとよく頑張りました。
今日もきっとどこかで
産婦さんとともに
長い長いお産に、寄り添っている助産師仲間がいると思うと
私も励みになります。